「介護福祉士になる外国人留学生のための日本文化入門」のWeb公開しました

平成31年度より入国管理法も改正され、より幅広い労働市場に外国人労働者が入ってくる状況になりました。日本で介護福祉に関わる仕事に就く外国人は、EPAのもとで母国で学びそして日本にやってきて仕事に関わる例はこれまで多くありましたが、それに加えて今後、日本の専門学校で教育をし、日本で働いてもらうという流れも出てくるかと思います。

介護に関わる技術に関する教育実践とテキスト化については、これまでの介護に関わる専門的な技術実践については蓄積もあるかと思いますが、日本人の高齢者との関わり方について、外国人留学生はどのように学ぶのか、文化的背景に関わる理解については、よりこれから教材開発される領域かもしれません。留学生にとって、異文化である日本の社会のなかで、介護をする側とされる側のあるべき関わり方について今後どう取り組むかを考えないといけません。

私は介護福祉に関わる専門家ではありませんが、大学で留学生に「日本事情」という授業科目を教えていることもあり、愛媛県の河原医療福祉専門学校が文部科学省から採択された「平成29年度「専修学校による地域産業中核的人材養成事業 」(課題名 「外国人介護福祉士候補者の素養、スキルを養う教育プログラムの開発・実施」)において、試作となるテキストの作成を行いました。

日本語能力N3クラスを前提にということでしたが、試行版とはいえ、大変難しく感じました。果たして伝統的とされる日本文化について、語彙数を少なくし、平明でありながら画一的にならない説明ができるのか、不安でしたが、まずはご批判をいただきながらと考えております。

テキストを作成するときに、介護福祉士養成の専門家からいただいたコメントに

「介護の現場で見てみると、日本の老人観が変わってきているように思います。2020年には75歳以上の後期高齢者に戦後生まれが入ってきます。今の日本人が考えている老人観と違い、個人の権利を強く意識し、また戦後の高度経済成長のなか、大衆文化を享受してきた人たちによる老人像へと変わっていくのではないでしょうか。「お年寄り」のイメージを画一的に見てはいけないしし、そのことを外国人学生がどのように理解してもらえるようにするか。これは若い日本人学生にもいえることですが、今後の介護の現場における日本人像、日本文化像とも大きく関わります」

といわれました。

なるほど難しいですね。当たり前のことですがテキストでは「日本では○○・・・」という示し方ではなく、「あなたの育った国や社会における身の回りにいた高齢者はどうでしたか?」というイメージから展開してもらえるようにと考えた文章にしてみました。

少しファイルが重たいのですが、以下の目次の各章をクリックして頂くとPDFが開くようになっています。そのままサイト内で開いてしまいますので、別の窓やタブで開いていただけると助かります。

はじめに・目次.pdf

第1章 基本的な挨拶・礼儀・マナー(pdf:8MB)

(1) 施設のお部屋で会うときの挨拶

1.「はじめまして。よろしくお願いします。」(初対面の場合)

2.「お元気ですか。」「体調はどうですか」(相手の体調から話しかける)

(2) 訪問するときの挨拶

1.「ごめんください」「おじゃまします」

2.お部屋に入るとき万能な挨拶「失礼します。」

(3) 別れ際の挨拶

1.「さようなら」よりも「また伺います」「お元気で過ごしてください」

2.自宅を出るとき「失礼します。」

(4) お礼、お詫び

1.「ありがとうございます」「ありがとうございました」

2.「(大変)申し訳ありませんでした」「すみませんでした」

(5) 一般家庭を訪問時のマナー

1.細やかなマナー

2.極力しないようにするマナー

(6)宗教上(神社仏閣など)における基本的なマナー

1.部屋にある神棚、仏壇について

2.柏手を打つ、手を合わせる。数珠をまく

3.お墓参りについて

4 お札、お守り

第2章 日常の生活・家庭での生活(pdf:8MB)

(1) 食生活に関すること

1.箸の使い方、配膳、食器について

2.魚の食べ方、調味料の使い方

3.日本人の食に対する考え方 

4.食に対する好み

(2)衣服に関すること

1.日本文化と着物-日常での着用、社交儀礼、そして伝統的な文化との関わり-

2.衣服の着方、洗濯の仕方、たたみ方

(3)入浴・トイレ・掃除・睡眠に関すること

1.入浴方法、日本人の入浴への考え方

2.トイレに関すること

3.掃除に関すること

4.睡眠に関すること

第3章 文化・習慣(pdf:9.57MB)

(1)習い事に関すること

1.書道

2.茶道

3.華道

(2)歌を楽しむこと

1.高齢者に好まれる歌(童謡、唱歌)と思い

2.俳句や短歌を詠む

(3)世代により違う高齢者

1.時代や社会によって変わる高齢者像

2.戦前生まれの世代 

3.戦後生まれの世代・団塊の世代

(4)ことわざと慣用句そして口癖

1.会話で出てくることわざ・慣用句

2.口癖

(5)人生の節目とお祝い

1.子供から成人にかけての儀礼と祝い

2.壮年から老年にかけての儀礼と祝い

3.結婚式

4.お葬式に対する考え方

(6) 年中行事に対する思い  1年間の節目

1.お正月とお盆

2.祝祭日

(7)日本で見られる宗教観

1.宗教への考え方

2.神道と仏教

3.親への思い、先祖への思い

第4章 日本人論・日本社会論でよく使われる価値観(pdf3.37MB)

(1)日本人論で語られる見方について

1.謙虚、遠慮

2.「おもてなし」の心

3.「もったいない」の心

(2)日本社会でよく使われる価値観

1.本音と建前

2.義理と人情

3.根回し

4.和

おわりに-介護を受ける人の文化背景を知ること、そして介護するみなさん自身の文化背景を知ること(pdf:110KB)

なおこのテキストは、著作権を放棄しているフリーテキストにしています。上記文章を加工しご活用いただいても問題はありません。