プロフィール

私、和田健の自己紹介をいたします。

千葉大学大学院国際学術研究院所属の教員で、主に国際教養学部で教えていますが、文学部、大学院人文公共学府でも授業を担当しています。

専門は民俗学・民俗資料論ですが、留学生・日本人学生による協働学習の授業も担当しています。

以上で十分かもしれませんが、もう少し自分のことを書いてみます。

1.出身

1967年大阪府生まれです。東大阪市、大阪市生野区で育ちました。親は釜飯屋をやっておりました。その釜飯屋は近鉄電車沿線にあったこともあり、その近鉄電車を眺めているのが好きな幼少時代を過ごしました。店の近くにある踏切の前に映画館があり(ポルノばっかり上映していた)、その玄関前に子供が座るのにちょうどいい高さの石が置いてあり、そこに座って半日以上近鉄電車が通るのを眺めていました。

何が楽しかったのでしょうね。特段鉄道マニアではありませんが、当時電車が線路を通るときの音が物まねできていましたね。しかも車両番号で区別できていたのは子供ゆえのまっさらな脳だったからでしょうか。

いい年になった今でも自宅近くの常磐線の車両を眺めるのは好きですね。「あっ、E209系だ。」「東京メトロ16000系だ」・・・いえいえ、鉄道マニアではありません。

2.出身大学、大学院

1997年7月 筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科文化人類学専攻単位取得退学
2004年12月 博士(文学)

学部も筑波大学(茨城県)で過ごしました。私が在学中はつくばエクスプレス(TX)もなく、広大な農村と山林の真ん中に、南北に立て長い異次元空間のように作られた研究学園都市で過ごしました。

私はここで民俗学を学びました。研究学園都市(当時は異次元空間)から少し離れると、つくば市になる前の旧桜村、旧谷田部町の田園風景で各集落の中に配置されている観音像、庚申塔、馬頭観音像なんかを見るのはとても楽しかったですね。今でもはじめてたずねる農山漁村の祠や石像、神社、仏閣から集落の人が使うメインストリート(国道、県道のような幹線道路と違う)を探したりしてしまうのは、もとからあった集落のヤマを切り開いて別の空間(研究学園都市)を作った風景を見て育ったからかもしれません。

2012年にその出身校に集中講義で行ったときに初めてつくばまでTXに乗りましたが、何だか普通のかっこいいマチになっていてうれしいようながっかりするような・・・。あの異次元空間的雰囲気も懐かしい思い出ではあります。

3.職歴

1997年7月 筑波大学 歴史・人類学系 助手

民俗学・文化人類学コース(民俗学・民族学研究室)の助手に採用いただき、そこで民俗学、民族学(文化人類学)の学生が必修で参加する野外実習の授業の運営に関わりました。1週間程度宿泊をしてフィールドワークをする授業ですが、とても楽しかったです。私が助手のときには岩手県北上市や釜石市、そして宮城県気仙沼市唐桑町などに行きました。

1999年10月 千葉大学 留学生センター 助教授

助手になって2年後に千葉大学に移り、留学生センター勤務になりました。学生時代、留学生と関わる機会はそれまであまりありませんでした。出身校の民俗学・民族学研究室で出会った韓国の大学院留学生の先輩や日本語日本文化研修留学生の修了論文指導でタイの留学生にお餅の食文化や葬式の儀礼を教えたぐらいで、さほど接する機会が多くありませんでした。うまく留学生教育に関われるか心配でしたが、留学生の方が同じ学年の日本人学生より大人な感じで話がしやすく、私はすっかり慣れてしまいました。このあと国立大学は法人化をして、国際教育開発センター、国際教育センターと名称替えと配置換えがありましたが、留学生の教育に関わる仕事はつづいています。つづくというよりも教育以外の仕事がいっぱい増えましたね。おもに授業科目は学部留学生が必修の「日本事情」(日本の文化や社会に関わる概説)を教えていますが、着任当初より日本人学生と留学生の協同学習に日本事情科目を変更させ、今にいたっています。学部留学生と違って短期留学生は1年で母国に戻りますが、今でも会いに来てくれたりFacebookなどでつながっていたりしてとても関係が長く続きます。卒業や短期留学修了後も引き続きつながっている人間関係は財産だなあ、とつくづく思っています。

大学院では民俗資料論を教えています。いわゆる民俗学で話題になっていることを中心に文献を読む作業もしたり、今私が関心を持っている農山漁村経済更生運動における生活改善指導に関わる資料を読んだりもしますが、房総の郷土食を学生と探してその由来や地域での関わりを調べたりしています。

2016年4月 千葉大学 国際教養学部 准教授

新しい文理混合の学部に配置換えになりますが、地域の問題を発見し、自ら企画を立てて切り開いていくことができる学生が育つようにサポートしていきたいと思っています。学問分野にとらわれすぎずに「歩く・見る・聞く」に加えて、「考える・動く」ができる学生の実践の場を作っていきたいと思っています。もちろん留学生も積極的に参加できる協同学習の場を作ります。

2020年10月 千葉大学大学院国際学術研究院 教授

あらたに教員組織の配置換えがあり現在にいたっています。学部が新設されて4年が過ぎて、あらたな教員組織にかわりました。

4.研究テーマについて

(1)民俗学・民俗資料論

【農山漁村の協同労働、協業関係の考察】

 もともとの私の振り出しは民俗学です。主として農山漁村の家同士、人同士の関係、いわゆる村や町のなかの社会関係に関心があります。もとからの関心は農作業に関わる協同労働慣行で、人同士、家同士の関係のもと力を合わせて田植えや収穫を行う労働力の結集にその村や町の空間で共有されている歴史的文脈を感じています。また農産物の流通においても、農家同士が協業していくことも、存外古くからの協同労働慣行のつながりが影響を与えていることもあります。そういった農山漁村の社会関係の歴史的な重層性に関心を持っています。まだまだ十分な精査が足りない調査でしたが、その思いで『協業と社会の民俗学 協同労働慣行の現代民俗誌的研究』(2012年 学術出版会)を書いてみました。

【農山漁村経済更生運動に見られた生活習俗の改善指導】

 また最近では農山漁村経済更生運動で実施された生活改善指導にも興味を持っています。1932年に始まったこの官製運動は、昭和恐慌以降の農村経済建て直しの施策として行われましたが、この時に「今までの生活習俗を改めなさい」という指導が多く出されます。結婚式では贅沢な衣装を用意しない、葬式では墓掘りの六道以外はお酒を出さない、告別式の報せは相手方から酒食をもらわない、子どもの七つの祝いは長子だけ等など・・・。守られていたかどうかその村によりいろいろでしょうが、人々の生活習俗(民俗)に指導の手を入れていく姿があからさまに細かく見えてきます。意外に1930年代そして40年代に私たちが今に伝承される民俗に公な側から手が入れられたのかな、という印象もあります。まだまだいろいろな更生計画書を読んで、それに関わるむらを取材調査する途上ですが、最近ではその作業を行っています。(ここ最近では「生活改善規約を持った更生指定村-より強化された生活習俗の系統化-」(千葉大学文学部編・発行『人文研究』第43号)2014年3月 pp91-119、「弊風とされた民俗 -更生計画書、生活改善規約に記載され改善を求められた社交儀礼-」(千葉大学文学部編・発行『人文研究』第44号)2015年3月 pp221-256などでまとめてみました。)

(2) アクティブラーニングを主体とした日本人学生と留学生の協同学習

 もともと留学生と日本人学生の協同学習ではじめた「日本事情」は、今勤めている千葉大学で日本人学生も教養科目として卒業要件にできる科目になりました。留学生、日本人学生双方がチームになるグループワークは、学生にとっていろいろな発見、気づきがあって、教えている側の私も大きな発見でした。主体的に学生が作業をするアクティブラーニングは、講義型の授業と違って、学生側が持つ思考のフレームがほぐし直される印象があり、それなりに効果があります。協同学習のあり方について国際教育センターの同僚たちとともに研究会をつづけています。最近では「「気づき」を記述すること-協同学習としての「座談」と「書くこと」に関する覚書-」(千葉大学国際教育センター編・発行『国際教育』第8号)2015年3月 pp1-18)で同僚たちと関わっている科研費での作業を報告してみました。

 またこれ以外でもいろいろな取り組みに挑戦しています。千葉県鴨川市で、廃校になった小学校校舎の活用のあり方や国立歴史民俗博物館で展示案内のワークシートを留学生が母国語で作成する企画に携わったりしています。

5.国際教養学部の授業で行っていること

国際教養学部では、1年生向けの授業科目で「現代日本課題演習」「質的調査法Ⅰ」を担当しています。

「現代日本課題演習」は、私以外の担当教員合わせて5名が担当しています。現代日本メジャー領域を意識して、さまざまな現代日本の課題設定をしてグループワークによるアクティブラーニングを行います。各教員が1クラス20~24名程度を担当し、合計5クラス開講します。学部1年生は全員必修の科目です。学生はどのクラスに入るかは自分で決めることができず、機械的に配置されます。各教員の専門はいろいろで自分の専門分野に近い形で課題の提案をします。私は「衣食住と日常社会」の課題提案をして1グループ5人程度に分けてグループのテーマに合った基本文献、既発表論文を調べ、発表の組み立てを行います。フードロスとそれに取り組み日本の場や、リクルートスーツはなぜ着なければいけないのかなど、自分たちが疑問に思っていることをもとにある一定の結論を出してもらいます。

「質的調査法Ⅰ」では、さまざまな質的調査(聞き取り調査、ワークショップ、アクションリサーチなど)の場面を紹介しています。特に文理混合の学部ですので、それぞれの分野における質的調査がどう実践されているかを話します。

2,3年生向けには「現代社会と民俗」「日本の食生活」を担当しています。

「現代社会と民俗」では、古くから伝承される生活習俗に、どのように向き合い伝承しそして変えられていくかについて、過去と現在の価値観を比較しながら紹介します。墓じまいや家族葬のあり方などは授業で扱います。

「日本の食生活」は戦後大きく変わった食の風景を毎回1回完結で話します。「カレーライスはいつから日本人の国民食になったか」「インスタントラーメンから見る日本と世界」「天ぷらにソースをかけて食べられますか」などできる限り日本の食文化史を世界との関わりを接続させて話すようにしています。

3,4年生では「クロス・メジャー・プロジェクトワークⅠⅡ」「メジャープロジェクトⅠⅡ」で主に卒業研究に関わる指導をしています。

ここまでの卒業論文では以下のような題目でゼミ生は執筆しました。
「家庭への小麦粉料理浸透のための企業戦略-NHKテキスト『きょうの料理』における広告分析から-」
「食事をめぐる個人・家族・社会の関わりにみる日常 -メキシコ・アグアスカリエンテス州の家族誌的記述からの考察-」
「インドネシアにおける日本食受容の多様性 -地方都市ランプンに着目して-」
「祭礼運営組織の存続と地域コミュニティの再創造-那須烏山市 山あげ祭を事例に-」