身近にある新たな発見-房総の郷土食を探し歩く
民俗資料論演習(人文社会科学研究科授業)での報告

1.この授業の目的と今までの経緯

 毎年秋学期(10月開始)開講の授業「民俗資料論演習」(人文社会科学研究科)では、「房総の郷土食」を対象に参加者の調査報告、意見交換そして試食会を行っています。

 もともとこの演習で「房総の郷土食」を対象としたかったのは、私が食べることが大好き・・・ということもありますが、房総半島ふくめて千葉県のおいしいものとは何か、その食べ物と土地の人たちの生活はどのように関わっているのか、もう少し詳しく知りたい、というあまり重くない理由です。

 ステレオタイプ的な見方はいけませんが、どの土地にも「これが名産」というのがあり、代名詞のようにいわれます。広島といえば牡蠣、長野といえばソバ、新潟といえば米だとか・・・。その土地において誰もが知っている食べ物が出てきますが、房総半島というのは「何かな?」と思ってしまいます。

 房総半島は何も見るべき食べ物はないのでしょうか?

 逆ですね。ありすぎるくらいといってもいいでしょうか。漁獲水揚げ高も常に上位を占め魚は豊富、そして野菜の生産額も常に上位、酪農も知る人ぞ知るトップクラスの生産額。

 よくいえば何でもありすぎて、何が名産かというとなかなか難しい。もちろん落花生やびわそして煮干しやはばのりといった代表的な産品は上げられます。でも名前をあげると同時に「他にもいっぱいあるかな?」「たしかに代表的だけど房総半島全体の産品ではないな。」という印象がぬぐえません。

 この授業ではそんな房総の食文化から「あるもの探し」(民俗研究家の結城登美雄さんのことば。「ないものねだり」せず、その土地で持っているものから探す)を心がけて、学生が「歩く・見る・聞くそして食べる」を報告してもらっています。

2.そもそもなぜ「民俗資料論演習」で房総の郷土食か

 もともと私がこのテーマで演習をはじめたのは、千葉大学に地域観光創造センターという時限的な組織があり、そこの活動を兼ねてのことでした。そこで地元の食材とその活用方法について、聞き取り調査をおこない、テーマごとにそして地域ごとに地元の食材を改めて紹介できるようなデータベース化を進めたい、と思っていました(まだ十分に集約できていないのは残念なのですが)。地元で日常食べられているものは、地元の人びとにとって当たり前すぎて特に意識化されることは少ないかもしれません。それを出してもらうことによって、地域外の人たちに紹介できる戦略的な方法を検討する資料作りを行いたい、と考えました。たとえば銚子の「海草こんにゃく」八街の「味噌ピー」などは地元の食卓では定番の要素はありますが、少し隣の町の人たちにうかがうと、必ずしもそうでもないといったことに出くわします。そういったやや局地的な魅力ある食を探す作業を各回受講者に発見してもらい、実際に足を運んで聞き取り、試食をして報告をしてもらっています。

 今回歴代の受講者の協力を得ながら、まずは彼らが集約して報告した成果をHP上に掲載しようと考えました。受講者のみなさんにはレジュメなどの資料をHPに活用することを前提として発表をしてもらいました。みなさん、ありがとう。

 すべてを報告できるわけではなく、また成果も今後の課題多しということはご寛恕賜るとして、意外にいろいろなものがあることに参加者みんな驚きながら楽しんでいます。 そして何よりも「房総の郷土食」を選んだのは、受講者が民俗学専攻だけでなく(というより少数)考古学、美術史、歴史学、社会学など様々な分野の学生が集まる授業であったので、食べ物通じていろいろな観点から話をできるかな、と思ったからでもあります。

 ただ、受講者にやってほしいのは、実際にいって取材をして食べてきて全体像をまとめる。できるならば持って帰ってきてみんなで食べる(笑)ことでした。

3.今までの成果と報告について

 演習の受講者は、自分が選んだ郷土食(あるいは食材)を選んでフィールドワークして報告してもらったのですが、新しい報告から順に報告を掲載していきたいと思います。

 以下のものをこれまで題材に報告をしてもらいました。

深川めし
房総半島ではないのですが、東京都江戸川区の深川めしについて、区の観光戦略とともに報告をしてもらいました。漁師がアサリやバカ貝を使って手軽に食べる汁かけタイプの食が始まりなようですが、このように貝を使った手軽な食は房総含めて全国的にどのような状況なのかな、と思いました。今後調べてみたいと思います。(人社研1年末益 智広さんの報告)
三つ目のぼた餅
出産後3日目に作られる「三つ目のぼた餅」の房総半島での民俗事例について、先行文献から調べて報告してもらいました。今までの報告を整理すると、房総半島広域で見られた事例ですが、安房地方の報告は見かけないようです。たまたま報告が落ちているのか、地域的な特徴を考える課題を次は見ていきたいと思います。(人社研1年高梨和矢さんの報告)
太巻き寿司
房総の太巻き寿司は、今や名前が知られる料理となりましたが、千葉県の米消費拡大を柱とする戦略や山武市での研究会を中心とした普及の経緯について報告をしてもらいました。各家で各集落で作られている伝承については、細かく見ていくと、地域的な特徴も見えてくるかもしれないかな、という課題を確認しました。(人社研1年権 梅林さんの報告)
千葉県の発酵食品文化
千葉県香取市水郷エリアを中心に、「発酵の里こうざき」について報告をしてくれました。もとは日本酒の蔵元に興味を持って取材をしようとしてくれましたが、お酒と関連させて麹に関わることを調べてもらいました。発酵市場や、千葉を代表する醸造元の鍋店と寺田屋本家の酒蔵祭りが3月に共同で行われることなど、神崎町の取り組みについても報告してもらいました。(人社研1年ソマンさんの報告)

 順次彼らの発表に基づいた報告を更新できるようにしていきます。