「改善を提言される衛生と民俗 : 生活改善同盟会指導書からの考察 Ⅱ 」公刊

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標題拙稿が千葉大学リポジトリで公開されました。

「改善を提言される衛生と民俗 : 生活改善同盟会指導書からの考察 Ⅱ 」

本稿では1920年~30年代、国民の通俗教育(社会教育)を行う実施母体であった生活改善同盟会刊行による指導書(『生活改善の栞』と『農村生活改善指針』)に記された「衛生」に関わる生活改善指導について、考察を行ってみました。

「衛生」といってもこの時代の衛生観は多様であることがわかります。

生活改善同盟会による指導において、「衛生」に関わる考え方は、ひとことでいえば「病気の予防と健康」を目的としたものです。

伝染病を未然に防ぐ方法は何か。寄生虫を食物介して拡散しない方法は何か。そのために便所の改善(代表的なのは内務省式改良便所)や下水関係(台所関係の排水と便所関係の排水が交わらないようにする間取り構造など)、間取りなど、ハードの側面からの改善も必要です。

また日常生活における工夫、例えば採光をよくして、風通しをよくすること、万年床のような寝間にはしないことなど、生活のあり方から見る指導もあったりします。

その「衛生」に関わる人々に対する具体的な生活改善指導はどのようなものであったか。本稿では、2つの指導書に見られる「衛生」に関わる記述を比較して、人々の日常生活に「衛生思想」が埋め込まれる感覚について、そして「衛生的」とされることばの受容について、あわせて考察をしてみました。

また生活改善同盟会設立の趣旨の中に「国民の覚醒を促し思想を善導する」と記されていますが、「思想を善導」することと、旧来より人々が行ってきたさまざまな民俗慣行との関わりについて覚書として記しておきたく書いてみました。

『生活改善の栞』(以下『栞』と書きます)は都市生活者中間層を意識した生活改善の手引き書といえます。そのなかで『栞』は「社交儀礼の改善」「服装の改善」「食事の改善」「旅館其他の改善」「一般生活振りの改善」と5つの章立てをしています。「衛生」を独立して章立てしていないのですが、各章の中で節立てされた中で細かくふれられているのが特徴です。たとえば「社交儀礼の改善」は9つの節立てがされており、その中で「7 公衆作法の改善」があります。

そこでは、ゴミや痰唾を公衆空間にまき散らさないことについてふれています。また「衛生」に関わる記述が多い章は、「食事の改善」「旅館の改善」にもあります。「食事の改善」の中では食の作法の観点から衛生的である食生活のあり方について、そして「旅館の改善」では食堂、台所浴室のあり方について衛生の観点からふれています。具体的な記述内容についてはぜひ拙稿をご覧いただければと思います。

一方『農村生活改善指針』(以下『改善指針』と書きます)は、文字通り農村生活者を意識した生活改善の手引き書です。『栞』とは違う章立てです。「社交儀礼の改善」「衣服の改善」「食事の改善」「住居の改善」「衛生の改善」で、「衛生」が独立した章になっています。

そして「衛生の改善」の章以外でも、「衛生」に関わる記述が多く含まれています。特に「食事の改善」については『栞』と重なる記述となっており、宴会のあり方や提供する食事の分量を考えることなどは『栞』と共通しています。

「衛生の改善」ではおもに「寄生虫病」「トラホーム」「消化器の伝染病」「栄養品の粗悪単調」「衛生施設の不備」といった病気予防の観点からの記述です。『栞』はおもに日常生活での作法から衛生についてふれていますが、『改善指針』はそれに加えて病気の予防に対する観点に紙幅を割いているところに、構成上大きな差があります。

両書の違いを見ることで、この時代の衛生観に関わる社会(通俗)教育指導と生活習俗の関わりを見ることができるのでは、と感じています。

千葉大学附属図書館リポジトリに更新されましたので、ご一読いただければ幸いです。